






与那国島は日本最西端の地。島の西側からは台湾の山々の稜線が望め、冬でも気温が20度を超える暖かさである。うららかな島で育まれる名産は、パクチー。ここ与那国では“クシティ”と呼ばれていて、古くから親しまれているのだそう。
お邪魔したのは、島の中心部からほど近いクシティ畑。「4835番、ここは与那国の一番最後の住所だよ」と松村嘉永さん、御年87歳。傍らには、妻の淑子さんがにこやかに寄り添う。
「もともとここは苗代(稲の苗床)だったんだよ。クシティの畑にしたのは10年くらい前かな。ブームで内地から引き合いがたくさん来てね」(嘉永さん)

おふたりも小さいころからずっと食べていたのだそう。新芽の状態で刈り取るのが与那国流。普段食べるパクチーが香り付けに料理にまぶす程度なら、与那国のクシティは葉も茎も柔らかく、サラダにしてそのままいただくのがオススメだという。
ならば、とばかりに畑のクシティを手でむしって頬張った。芯の柔らかさに驚く。そして何より、香りがすがすがしく、ほんのり塩味も感じる。
「潮風が天然のスパイスだから」と淑子さんは笑った。


「缶詰のツナを載せてドレッシングをかけて食べますよ。あとは和え物にしたり」(淑子さん)
フワフワで柔らかく、おいしい。パクチーがダメでも、クシティなら食べられる人が多いと聞いたが、それも納得だ。
「ヤギみたいでしょ(笑)」と役場の上地常夫さんはいう。「コレ食べてみてよ」と、淑子さん特性のクシティのペーストをご相伴にあずかった。
「作り方は簡単よ。キレイに洗って水切りしたクシティとたっぷりのオリーブ油とニンニクを一房と、塩をひとつまみ。それをミキサーにかけるだけ。パンを焼いて載せてもおいしいよ」(淑子さん)

クラッカーにディップしていただくと、今度は濃密なクシティの香りが口いっぱいに広がる。ふるさと納税の返礼品で作ってもらえれば、と考案したばかりだとか。パスタなどに和えるのもいいアイデアだろう。日常的に食べられる産地ならではのレシピだ。
「正月の味だよ」とおふたりは言う。新芽が出る年末から年明けにかけてが、クシティの旬なのだという。花が咲くころには茎が堅くなってしまうため、島ではあまり食べなくなるそうだ。


「このおいしさを全国の人に知ってもらいたいと思っています」
役場の上地さんは語る。台湾からほど近い土地ゆえ、台湾の食卓に上るクシティも、与那国で愛されてきたのだそう。福岡から移住し、役場で働く大田倫子さんもその味わいに魅せられたひとりだ。
「日本の“元祖”は与那国だよってアピールしたいですね」
クシティのほかにも、長命草や黒糖、カジキマグロといった産品もある。また、与那国ならではのアルコール度数60度の泡盛“花酒”も人気。いずれもふるさと納税の返礼品だ。

「最初は生産者さんも恐る恐るでしたが、いざ始まると積極的になりましたね。泡盛の古酒の18升の壷が出たこともあります。あとはエビも人気です」(大田さん)
「このあたりはカジキの漁場になっていて、年間1000本くらい、トローリング(一本釣り)で釣ります。釣ったその日に水揚げして、翌日には九州の市場に出回る新鮮さですよ」(上地さん)
トローリングは釣りの愛好家にも人気だ。与那国は、マリンレジャーが楽しい場所。
「古代遺跡という説のある与那国島海底地形など、ダイビングはとくに人気ですね。与那国馬という在来種の乗馬体験もできます。もっと与那国のよさを知って、全国の方に来ていただくことが目標です。そのために、特産品の掘り起こしや施設の充実を目指しています」(上地さん)