






熊本県天草市におけるふるさと納税の寄付金の使い道は、この地域ならではだ。世界遺産登録を目指す「キリシタン・南蛮文化」の拠点としての景観整備や、日本一小さな航空会社「天草エアライン」の支援。野生のミナミハンドウイルカの保護や観光振興など、実に多彩だ。裏を返せば、それだけ独自の魅力があるということ。
「これからの季節は、マリンレジャーですね。山もありますし、県内最大級の花火大会や『サンタクロースの聖地・天草』にちなんだ珍しいイベントも行われます」
こう語るのは、天草市役所総合政策部の松下晃市さん。さらに経済部の鯖江加奈子さんは「季節によって旬の魚が変わっていくので、一年中美味しい魚が楽しめますよ。」と教えてくれた。年間を通して様々な楽しみ方ができる場所といえる。

「ふるさと納税の目的は、まず天草市そのもののPRです。返礼品のなかには、遭遇率98%のイルカウォッチングや、天草エアラインのチケットと宿泊プランもあります。また地場産業の育成も目的としていて、天草大王というブランド地鶏なども出していますよ」(鯖江さん)
ANAとの取り組みは、地域のPRや観光促進を行うANA総合研究所が、「地域おこし協力隊」としてスタッフを派遣したことに始まるという。
「やっぱり人の繋がりから始まっていますから、ふるさと納税も繋がりのある人たちにアピールできたらと考えています。ANAの飛行機に乗られる方々に、天草市に来てもらって、楽しく過ごしてもらえたらうれしいですね」(松下さん)


東シナ海、有明海、八代海の3つの海に囲まれた天草市について語るなら、やはり海の幸に言及せねばならない。八代海に面し、山々の栄養が流れ込む場所で車海老の養殖業を営む友榮水産の益田友和さんに話を聞いた。
「天草では古くから車海老漁が盛んで、漁師が天然ものを獲り、それを大きく育てる蓄養から養殖業が始まったんです。創業したのは明治時代からで、私は5代目になります」
海からほど近い大小4つの生け簀の水深はおよそ2m。水車で海水に流れを作り、ほぼ自然に近い環境で養殖を行っている。

「海水が茶色っぽくなっているのは珪藻が湧いていて、ブラウンウォーターと呼ばれる栄養が豊富な状態なんです。アミエビやアサリ等、天然のエサを与えることで車海老本来の甘みを引き出しています。また生け簀から獲るときは、カゴにコノシロ(コハダ)の切り身を入れて漁をします。だからほとんど天然と一緒なんですよ」
車海老は夜行性で、陽が出ると砂に潜ってしまう。そのため、その後は毎日生簀みに潜り、海水と海老の状態をチェックする。出荷も陽が昇るまでが勝負だ。
「一番気を遣うのは、海老にストレスを与えないようにすることです。あとは水の状態、病気にも注意しないといけません。薬を使わないで育てているので、ものすごく繊細なんです。たったの1日で全滅してしまうこともありますから」

見せてくれた車海老は、カゴの中でパンパンと音を立てて跳ね回る。透き通る身が宝石のように美しい。
「うちの海老の特徴は、甘みが強いことです。ぜひ召し上がってみてください」
益田さんが獲れたてを料理して振る舞ってくれた。刺身はプリプリと弾力があり、確かに甘みが強い。半身に割って焼いた兜焼きでは、その甘みの強さがさらに引き立つ。淡白ながら濃厚な車海老は、多彩な美味しさが楽しめる。
「これもどうぞ」と出してくれた海老のパテは、旨みのかたまりのようだ。バゲットに付けて食べるのがおススメだというが、工夫次第で様々な料理に使えそうだ。

「こういう加工品もどんどん生産していこうと考えていて、ちょうど敷地内に加工場を建てているところです」
新鮮な海老や濃厚なパテは、海外からも引き合いがあるという。そしてふるさと納税の返礼品としても、美味しい車海老を届けてくれる。
「5代に渡り受け継いできた仕事を絶やさないために、販路の拡大に苦心してきました。チラシを作ったり、嫁が独学で販売サイトを作ったり、フリーペーパーまで発行して。天草は自然に恵まれていますが、過疎化で疲弊感も漂ってきています。でも様々な魅力がある場所ですから、ふるさと納税で活気を呼び戻せるかもと考え、すぐに参加しましたよ。そうしたら、本当にたくさんのご注文をいただいて」